(北村 淳:軍事社会学者)
3週間前の本コラム(「中国船220隻が集結、8つ目の人工島を建設か?」)において、220隻以上の中国海上民兵船団が南シナ海・南沙諸島のウィットサン礁周辺海域に展開している状況を紹介した。
フィリピン政府は同海域をフィリピンの排他的経済水域としている。そのため、中国の動きは、ウィットサン礁が属するユニオン堆を巡って中国と軍事衝突までしたベトナムに対してだけでなく、フィリピンに対しても強硬な姿勢を示していることになる。
中国の覇権的行動はそれだけにとどまらない。海上民兵船団に加えて、フィリピンをはじめとする南沙諸島紛争当事国に対して、より露骨に軍事的恫喝を行う状況が確認されている。
要塞化が進んだ中国の人工島群
南沙諸島の7つの環礁(スービ礁、ガベン礁、ヒューズ礁、ミスチーフ礁、ファイアリークロス礁、ジョンソンサウス礁、クアテロン礁)が中国によって人工島化されてからすでに5年近く経過した。今やそれらの人工島群は中国軍の前進海洋基地群といえるほどに要塞化が進んでいる。
とりわけ3000メートル級滑走路を有する航空施設が設置されているスービ礁、ミスチーフ礁、ファイアリークロス礁は、紅旗-9B型(HQ-9B)地対空ミサイルシステム(最大射程距離200km、マッハ6)や鷹撃12-B型(YJ-12B)超音速地対艦ミサイルシステム(最大射程距離300km、マッハ2)などで防衛態勢が固められている状況が確認されている。
そして7つの人工島では、巨大な灯台とともに、その付属施設として各種高性能長距離センサー(対空レーダーや海上レーダーなど)も稼働していることは間違いない。さらに南沙諸島人工島基地群周辺空域には、しばしば戦闘攻撃機による長距離警戒飛行が実施されている。おそらく近日中には、人工島航空基地に戦闘機部隊が常駐することになるであろう、ともいわれている状況だ。
南沙諸島海域に現れた高速ミサイル艇
このように南沙諸島人工島の要塞化が進んでいるのに加えて、最近、南沙諸島海域で中国海軍のType-022ステルス高速ミサイル艇(中国名は「22型导弹快艇」、NATO名は「紅稗型ミサイル艇」、以下「Type-022」)の活動が確認されるようになってきた。
以前より、海警局巡視船や海軍のフリゲートや駆逐艦などが同海域をパトロールしているのは常態化していた。しかし、高速小型軍艦までもが南沙諸島で睨みを効かし始めたのである。
Type-022は、ステルス性の高い双胴船構造の小型(220トン)高速艇(フル武装状態で最速38ノット)で、現在中国海軍は80隻以上保有している。小型ながらも8基のYJ-83型対艦ミサイルを連射することができ、高性能近接防空システムともいえるAK-630ガトリング機関砲(口径30mm)を装備している。
フィリピンメディアの船を追い払う
AK-630を装備しているとはいっても、Type-022は基本的には中国沿岸の防空システムによって保護されている海域でのパトロールと、中国沿海域に侵入してきた敵艦を沿岸海域から攻撃するためのミサイル艇と考えられていた。
しかしながら先週、フィリピンが実効支配中のセカンド・トーマス礁(下の地図)周辺海域を取材していたフィリピンメディアの船に対して、2隻のType-022が急接近してきた事件が発生した。Type-022はフィリピンメディアの船を追い回して同海域から追い払ってしまった。
1999年に、フィリピン海軍は、暗礁であるセカンド・トーマス礁に輸送揚陸艦を突入させて座礁させた。それ以降、座礁した揚陸艦にはフィリピン海兵隊員が陣取って、フィリピンにより実効支配を続けている状況をアピールしている。
このように、フィリピンによるセカンド・トーマス礁の実効支配態勢は、すでに全体が錆付いてしまった座礁揚陸艦だけという状態である。その暗礁周辺に中国海軍Type-022が出現し出したのだから、フィリピン当局が心穏やかでないのは当然だ。
Type-022に警戒を強める米海軍
セカンド・トーマス礁の事件に加えて、3隻のType-022が南沙諸島のミスチーフ礁に補給艦と共に停泊している状況も確認されている。ミスチーフ礁は中国が造った人工島の1つで、航空基地も設置されている。
また、数カ月前の出来事ではあるが、南沙諸島周辺海域で中国海軍強襲揚陸艦や駆逐艦が出動して実施された大規模演習にも、Type-022が参加していた。
したがって、これまでType-022は中国本土沿岸海域でのパトロール用と認識されていたが、南沙諸島人工島基地群周辺での警戒監視任務にも投入され始めたものと考えられる。同海域の中国軍による防空態勢がかなり進展しているということだ。
Type-022は、今回フィリピンメディアの小型船を追い回したような俊敏さだけでなく、8発の対艦ミサイルを連射する強力な攻撃力も備えているステルス高速艇である。そのため、しばしば同海域に空母艦隊を送り込むアメリカ海軍も、非常に危険な存在として神経をとがらせ始めている。
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(出典 news.nicovideo.jp)
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